五重塔の初層須弥壇の上に本尊・弥勒菩薩像の左脇侍として安置されています。左手に羂索(けんさく)、右手に三鈷柄剣(さんこつかけん)を持ち、蓮華座の上に左脚を外にして結跏趺坐(けっかふざ)しています。頭髪は総髪(そうはつ)(ストレートの毛髪を側面で束ねる)とし、弁髪(べんぱつ)(側面で束ねた毛髪)を左肩上に垂らし、頭頂には八束の莎髻(しゃけい)(花弁状に髪を結う)を表しています。眼は玉眼(ぎょくがん)(瞳を彩色した角膜状の水晶を顔面の内側から嵌(は)める)で、両眼とも見開き瞋目(しんもく)とし、両牙を下出し上歯列で下唇を噛み締めて、忿怒相(ふんぬそう)を示しています。着衣は条帛(じょうはく)・裙(くん)・腰布、装身具は胸飾・臂釧(ひせん)・腕釧(わんせん)を着けています。

　頭体幹部は前後二材矧(は)ぎで、挿首(さしくび)とする、寄木造(よせぎづくり)です。肉身全体は木地の上に黒漆を塗り、その上にさらに下地として胡粉(ごふん)(白色)、さらに緑青(ろくしょう)色、最後に群青色を施しており、実に丹念な仕上げとなっています。着衣には、截金(きりかね)、金泥(きんでい)(金粉(きんぷん)と漆を混ぜたもの)、盛り上げ彩色(胡粉を文様

状に盛り上げて彩色する)により、菱青海波文(ひしせいがいはもん)・雲文など弥勒菩薩像に共通するものをはじめ、花文・鳳凰文などさまざまな文様を表しています。

　小像ながら、彫技や彩色が繊細で巧みであり、仏師の高い技術と優れた造形感覚が認められます。五重塔内の他の二尊と同様に、五重塔が建立された貞和４年(1348)頃の制作になります。広島県内では数少ない制作時期をほぼ特定できる国・県指定文化財の仏像(不動明王)として貴重な遺例です。

徳島文理大学文学部　濱田　宣教授執筆

写真撮影：明王院を愛する会

非公開（1回/年の五重塔初重特別公開時見学可）

●弥勒菩薩像（県重文・南北朝時代／五重塔）

＜このページ＞●不動明王像（県重文・南北朝時代／五重塔）

●愛染明王像（県重文・南北朝時代／五重塔）

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