広島県指定重要文化財

木造弥勒菩薩(みろくぼさつ)坐像(五重塔)

南北朝時代・1348年頃作 像高52.7㎝

  五重塔の初層須弥壇の上に本尊として、両脇侍の不動明王・愛染明王とともに安置されています。腹前にて両手を重ねて仰ぎ、第一指先を合わせる禅定印(ぜんじょういん)とし(掌上の宝塔は亡失)、蓮華座の上に右脚を外にして結跏趺坐(けっかふざ)しています。頭上には髻(もとどり)を高く結い上げています。眼は玉眼(ぎょくがん)(瞳を彩色した角膜状の水晶を顔面の内側から嵌(は)める)で切れ長とし、口元は一文字に結び、静穏な中にも端然とした慈悲相を示しています。額には水晶の白毫(びゃくごう)を嵌め、首には三道(さんどう)を表しています。着衣は条帛(じょうはく)・裙(くん)・腰布、装身具は宝冠・冠繒(かんそう)・髪飾・胸飾・臂釧(ひせん)・腕釧(わんせん)を着けています。

 頭体幹部は前後二材矧(は)ぎ、挿首(さしくび)とする、寄木造(よせぎづくり)です。像全体(頭髪は除く)は木地の上に漆で布貼りし、肉身は金泥(きんでい)塗りとし、着衣には漆箔(しっぱく)(木地に漆を塗り、その上に金箔を貼る)を施し、さらに盛り上げ彩色(胡粉(ごふん)を文様状に盛り上げて彩色する)によって、菱青海波文 (ひしせいがいはもん)や団花文(だんかもん)、五重塔内荘厳画(しょうごんが)に見られる雲唐草文に類似するものが描かれています。

 国宝五重塔(貞和4年(1348))の屋根上の伏鉢(ふくばち)陰刻銘には、同塔を弥勒菩薩と結縁(けちえん)するために建立したとあり、本像を安置することはその由緒に符合します。

 本像は、南北朝時代に活躍した仏師(ぶっし)康俊(こうしゅん)の作風に類似するものが認められる優れた彫技にまとめられていること、弥勒菩薩像としては広島県内では唯一の国・県指定文化財であること、さらに両脇侍が不動・愛染明王像とした三尊一具である珍しい遺例であることなど、興 味深い貴重なものであると言えます。

 

徳島文理大学文学部 濱田 宣教授執筆 

 

写真撮影:明王院を愛する会

非公開(1回/年の五重塔初重特別公開時見学可)