国指定重要文化財

木造十一面観音菩薩立像(本堂)

平安時代・10世紀前半作  像高148.5㎝

秘仏により画像非公開

 


本堂の本尊・秘仏として、須弥壇(しゅみだん)上厨子(ずし)内に安置されています。

 左手は胸前に挙げて華瓶(けびょう)を持ち、右手は垂下して掌を開いて前に向け、右脚をわずかに踏み出し、蓮華座の上に立っています。頭上には単髻(たんけい)を結い、頂上に阿弥陀仏面、天冠台上の地髪に菩薩面三、忿怒(ふんぬ)面三、狗牙上出(くげじょうしゅつ)面三、背面に大笑(だいしょう)面、以上十面を一列に並べています。また、正面中央には化仏(けぶつ)(阿弥陀如来立像)を配しています。眼は彫眼(ちょうがん)(彫刻して彩色を施す)で半眼開きとし、薄めの唇を緩く閉じ、端麗な面相を示しています。着衣は条帛(じょうはく)・天衣(てんね)・裙(くん)・腰布・腰帯を着けています。なお、左足第一指先をわずかに上げているのは、衆生(しゅじょう)を救いに行く微妙な一瞬を示すものとして注目されます。

 一木造(いちぼくづくり)で、本体と蓮華座の蓮肉(れんにく)部と共木で彫出し、下地は錆漆(さびうるし)(砥粉(とのこ)と漆を混ぜたもの)を施し、古色塗りとしています。なお、背面腰部辺りに嵌(は)め板があり、一部に内刳(うちぐ)りが施されているようです。

 やや面長で、明快な目鼻立ちを刻み、肩を強く張り、胸回りは豊かで、両肘内側から胴をわずかに絞り、腰以下の肉付きも豊満に表し、どっしりとした姿態にまとめられています。また、衣の皺(しわ)(襞(ひだ))に見られる翻波式衣文(ほんぱしきえもん)(大小の襞を交互に繰り返すもので平安時代前期に多く見られる)や茶杓形衣文(ちゃしゃくがたえもん)(抹茶をすくう匙

(さじ)の先端の形に似る)の彫り口はやや深めであるなど、全体的に平安時代前期の作風が見られます。しかし、腰高の均整のとれたプロポーションになるのは平安時代後期になってからの特色であり、仏像彫刻史における平安時代の前期と後期の端境期(はざかいき)とされる10世紀前半に位置付けられる興味深い遺例と言えます。

徳島文理大学文学部 濱田 宣教授執筆

非公開(33年毎に特別公開、次回公開 令和6年 予定)